アブラモビッチ。
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チェルシーの売却を発表したわずか1週間後、ロシアのウラジーミル・プーチン(Vladimir Putin)大統領と密接な関係にあるアブラモビッチは、ロシアによるウクライナ侵攻への対応の一環として、イギリス政府から制裁を受けた。
アブラモビッチは資産を凍結され、イギリス国民や企業との取引も禁止された。また、イギリスへの入国を禁止する渡航禁止令も言い渡された。資産を凍結されたアブラモビッチは、チェルシーを売却できなくなった。
制裁で売却が危うくなったが、イギリス政府は特別に許可を与えた
チェルシーのクリスチャン・プリシッチ選手。
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イギリス政府は、チェルシーFCの運営継続を許可する特別ライセンスを発行し、アブラモビッチが取引から利益を得ない限り、クラブの売却を認めると声明で述べた。
また「政府はクラブの売却を受け入れており、売却を可能にするための新たなライセンスの申請を検討している」と述べ、「いかなる売却益も、制裁対象者が制裁期間中に受け取ることはない」と付け加えた。その後、政府は売却を可能にするためにライセンスを修正した。
すぐに複数のアメリカ人が、クラブ買収に興味を示した
イギリスの不動産王、ニック・キャンディ。
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クラブの買収に興味を表明したのは、MLBのシカゴ・カブスのオーナーであるリケッツ家(Ricketts family)、NFLのニューヨーク・ジェッツのオーナーであるウッディ・ジョンソン(Woody Johnson)、そして、MLBのロサンゼルス・ドジャースの共同オーナーであるトッド・ベーリー(Todd Boehly)がスイスの大富豪ハンスヨルグ・ヴィス(Hansjorg Wyss)らと組んだコンソーシアムだった。
他にも、NBAのサクラメント・キングスのオーナーであるヴィヴェク・ラナディヴェ(Vivek Ranadivé)、イギリスの不動産王のニック・キャンディ(Nick Candy)、トルコの実業家のムフシン・バイラク(Muhsin Bayrak)も興味を示していると報じられた。
カブスのオーナー、リケッツ家は撤退した
リケッツ家は、クラブ買収を目指す入札者の最終候補に挙がっていたが、「販売プロセスをめぐる異常なダイナミクス」のために最終入札をしないことを選択した。
家長のジョー・リケッツ(Joe Ricketts)が以前、イスラム教徒に対する差別的発言をしていたことから、チェルシーのサポーターからは入札に対する懸念の声が上がっていた。
リケッツ家が入札から外れたことで、ベーリーのコンソーシアム、イギリスの実業家マーティン・ブロートン卿(Sir Martin Broughton)率いるグループ、NBAのボストン・セルティックスの共同オーナーであるスティーブン・パグルーカ(Stephen Pagliuca)率いるグループが、入札者として残った。
イギリスの富豪が遅れて入札に参戦した
イギリスの富豪、ジム・ラトクリフ。
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大手化学企業イネオス(Ineos)の創業者兼CEOで億万長者のジム・ラトクリフ(Jim Ratcliffe)が、およそ40億ポンド(約6440億円)相当の入札額を提示した。そのうち約25億ポンド(約4027億円)はアブラモビッチが要求する金額で、17億5000万ポンド(約2820億円)は今後10年間のクラブへ投資する金額だとした。
「イギリスからの入札者は我々だけだ」と彼は述べた。
「買収の動機は、ただロンドンにすばらしいクラブを作りたいということ。営利目的ではない。我々は別の方法で資金を稼ぐことができるからだ」
最終的な落札者は、ベーリー率いるコンソーシアムに
トッド・ベーリーは、投資会社エルドリッジ・インダストリーズのCEOも務めている。
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チェルシーは2022年5月7日の声明で、優先交渉権者となっていたベーリーのコンソーシアムにクラブを売却することで合意したと発表した。
クラブによると、コンソーシアムは評価額を満たす25億ポンドに加え、今後10年間で17億5000万ポンドの追加投資を約束したという。
この売却額は、2020年に金融家のスティーブ・コーエン(Steve Cohen)がMLBのニューヨーク・メッツを買収した際の約25億ドル(約3260億円)を上回り、スポーツ界で史上最高の金額になる。
アブラモビッチがチェルシーへ貸し付けていた15億ポンド(約2420億円)をクラブ売却時に返済するよう求めたという報道もあったが、クラブは売却益はすべて慈善事業に寄付されると声明で述べた。
落札直後、ベーリーはチェルシーの試合を観戦していた
試合を観戦するベーリー(右)。
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ベーリーのコンソーシアムがチェルシーを落札したというニュースの直後、彼はホームスタジアムのスタンフォード・ブリッジで、チェルシーがウルバーハンプトン・ワンダラーズと引き分けた試合を観戦していた。
チェルシーの売却は、政府の承認を経て、5月下旬に完了する見込みだ。
(翻訳:仲田文子、編集:Toshihiko Inoue)
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